大阪府の最北端に位置する能勢町は、梅田から車で50分程度と気軽に行ける距離にありながら、四方を自然豊かな山に囲まれ気温が5℃ほど低く、大阪の避暑地として知られています。今回は、倉垣天満宮に隣接する能勢町ふれあいプラザを起点に田園風景の中、パワーをもらえそうな寺社や歴史スポットを巡る約11kmの周回コースをご紹介します。

 

桜の季節も終わり、いよいよ新緑の季節が到来。そんな4月中旬のサイクリングは、旧歌垣小学校を再編整備して新たに2023年4月にオープンしたばかりの能勢町ふれあいプラザを起点にスタート。最初に訪れたのは、同施設に隣接する倉垣天満宮です。1054年山城国北野天神の分霊を歌垣山の山頂に祀ったのが起源で、祭神は菅原道真。大干ばつの折、雨乞い祈願したところ、たちまち山野は潤い、村人の崇敬はますます厚くなったと言われています。参道の近くには銀寄せ栗の原木があったとされています。

全国的に有名な銀寄(ぎんよせ)は、栗の代表的な品種の一つ。9月下旬頃から収穫される銀寄の実は20〜25gと大ぶりで、甘みがぎゅっと詰まった風味豊かな味わい。1753年に広島から持ち帰った栗を能勢町に植えたところ良い味ができたので、盛んに栽培されるようになったのが発祥と言われています。江戸時代後期の大飢饉の際にこの栗を売り歩いたところ、高値で飛ぶように売れ多くの銀札(当時の紙幣)を集めたことが名前の由来とされています。
 
境内には幹まわり8.3mもの巨木のイチョウが御神木として大切に守られています。「翠枝千年なりき」といわれたこのいちょうは秋の黄葉が美しく、1938年に大阪府指定天然記念物に指定されました。植物学上からは中国渡来説により樹齢400年といわれています。

境内には愛くるしいお地蔵さんたちが。

いちょうのご神木のある神社。せっかくなので今度はいちょうの黄葉が美しい秋に、また訪れたいですね。

特別な観光スポットでなくても素敵な風景や町並みに出会えるのが、能勢の素晴らしい点のひとつです。新緑の中を自転車で走ると、気分爽快。

次に訪れたのは若宮八幡宮です。鳥居から雑草の茂る長い参道を歩いて行きます。

この若宮八幡宮は能勢領主源頼基により1049年に建立、 倉垣庄の「一之宮」とも称され繁栄しましたが、1907年に先ほど訪れた倉垣天満宮に合祀されました。
 
こちらには以前、ご神木として崇められてきたしい(の木)があり一時は大阪府の天然記念物に指定されていましたが、現在は残念ながら枯死して存在しません。それでもこの静かな空間に身を委ねていると、かつての風景を鮮明に感じられる気がします。

雰囲気のあるこの建物は、様々な催しに使われている能勢町交流促進施設。ちょっと休憩しながら、次のスポットへの道を確認。

田んぼの景色の向こうに見える山は、万葉集にも詠まれた歌垣山。古代では、共同体をさらに確かなものにするため 神を祭祀する斎庭が必要となり、その一つがこの歌垣山であったと言われています。農耕祭祀のかたわら、未婚の若者が定められた日に山の頂などに集まり即興の歌を交わし(現代のカラオケ合コン)、結婚の相手を決めました。これを歌垣と言い、それが歌垣山の名前の由来とされています。

田んぼをしばらく走り、西へ曲がって安穏寺(あんのんじ)へ。寺のすぐ前は、eBikeなので軽々と上っていますが、かなり急な坂です。

962年に建立された観音堂が安穏寺の開創と伝えられます。四臂(腕が4本)の十一面観音立像は、国内に7例しか残されていない貴重な遺品です。
 
恵心僧都の作とされる大阪府指定文化財でもある十一面観世音菩薩は、「火除けの観音様」といわれ、その徳の高い表情は心を穏やかにしてくれます。また、お堂の脇より湧き出る水は年中涸れることなく、この水を飲めば火難よく救われると言い伝えられています。(大阪公式観光情報

山門のちょうど正面からは…

歌垣山が綺麗に見えました。

ここ倉垣地区では中央の平地部に広がる田んぼを中心に、周りを囲む山の麓に様々な寺社が存在しています。

次に訪れたのは、檜材の寄木造の木造多宝如来坐像、水牛にまたがった木造大威徳明王坐像(能勢町重要文化財)などが有名な涌泉寺(ゆうせんじ)です。

手前右側の階段は、歌垣神社へのアプローチ。

「撫で牛天神」は、自分の身体の悪いところを撫でて、お経を唱えながら牛の同じところを撫でると、自分の悪いところを取り除いてくれるそうです。

古来より牛堂さんと呼ばれ、大威徳明王を祀り、ますます牛の守護仏として近隣諸国に名声高くなった涌泉寺。1月8日の牛の祈祷では、着飾った牛が列をなして群参しました。

涌泉寺に隣接する歌垣神社は、対面する歌垣山に発する神社。元々後背の山腹の大巖石の上に岩神と称して祀られていましたが、1196年に社殿を現在地に移転、1625年に牛頭天王を勧請しました。

背後の山の中腹にある巨石を祀っていたからか、境内にいても周囲の雄大な自然のパワーをひしひしと感じる神社です。有名な観光スポットというわけではありませんが、実はかなりのパワーを秘めているのではないかと思いました。

府道を北上していると、左手に能勢酒造が見えました(写真右奥)。江戸中期1712年に酒造りを開始。工場裏手にそびえる釈迦ヶ嶽(512m)から湧き出る桜川の銘水を「仕込み水」として、現在はミネラルソーダ、地サイダーなどの清涼飲料水を製造しています。

釈迦ヶ嶽は花崗岩の地層を持つことで知られています。花崗岩は天然のフィルターとして不純物をろ過し、その過程で花崗岩層のミネラルを取り込みます。そしてミネラル成分であるシリカを多く含んだ自然水として湧き出てきます。 自然のろ過装置によって生まれた水は、硬度16度のクリアな軟水で飲みやすく、まろやかな甘みが特徴です。

能勢酒造の商品も取り扱うヤマザキ命尾商店でランチを調達。すぐ近くの吉野薬師堂で昼食タイムとします。

通称「堂さん」と呼ばれる吉野薬師堂は、村の公会堂として用いられてきたもので、東山の広ヶ嶽山上にあったものを応安年間に現在の地に移したものだとされています。その創建については不明ですが、2004年に国登録文化財に登録されました。
 

建物の前の広場は遊具のある児童公園になっています。長閑な緑の中でゆっくり休憩し、心身ともにリフレッシュ。もう少し足を延ばしてみます。

国道を避けて裏道へ。思いのまま走られるのが自転車の特権。パワフルな電動アシストのあるeBikeなら、坂も全然気になりません。

京都府(亀岡市)との府境までやってきました。摂津と丹波の国境であったここ吉野タワ(峠)は「吉野の関」「関の明神」「ひいらぎ峠」「一本松」と、多くの呼び名が残されています。

この峠は、摂津から京・亀山(亀岡)道、丹波からは池田・妙見道として、摂丹を結ぶ最短路でした。ひいらぎの大木があり、丹波の鬼が摂津に入ってこないよう目突きの役割をしていたといわれています。
 

サイクリングは能勢酒造の横を抜けて一路起点の能勢町ふれあいプラザへ。途中、米作りから酒造りまで一貫生産を行う全国でも稀な酒蔵「秋鹿酒造」もあります。辛口で米の旨味がしっかりと酸味が利いた深い味わいの純米酒を土産に買って帰るのも良さそうです。

今回巡ったコースはこちら。

倉垣吉野 歴史スポット巡り 11km コース

 

*撮影協力
 能勢町観光協会 / のせNOTE 能勢町の観光と物産
 ヤマザキ命尾商店

*使用車体
 Tern / VEKTRON N8 *フロントラックはオプション(Kanga Rack)

*この記事で紹介している情報は、2023年4月時点の取材に基づいています。
*田畑への立ち入り、集落、路地への身勝手な侵入など、地域の方に迷惑のかからないようにサイクリングをお楽しみください。
*株式会社アキボウではCSR活動の一環として、産業(観光業)の活性化を目的に能勢町を中心としたサイクリングMAPの制作、情報発信に取り組んでいます。