簡単に折りたたんで気軽に持ち運べるフォールディングバイクで、サイクルトレインを利用する意味はあるのか。今回は、JR東日本の誇るサイクルトレイン「B.B.BASE」にVerge P10（ヴァージュ P10）を持ち込みその便利さと、千葉県香取市の佐原エリアを巡ったサイクリングの様子をお届けします。

房総を自転車で駆け巡るための基地 B.B.BASEを利用してみた

「B.B.BASE」とは、東日本旅客鉄道（JR東日本）が2018年1月6日より運行しているサイクルトレイン「BOSO BICYCLE BASE（房総バイシクルベース）」の略称。千葉「房総」の各地を「自転車」で駆け巡るための「基地」を意味し、電車そのものをサイクリングの「基地」にしようというコンセプトを表している。多くの鉄道会社では、公共交通機関に自転車を持ち込んで移動する「輪行」の際に、自転車は分解または折り畳んで輪行袋に収納することを義務付けているが、B.B.BASEでは車体をそのままの状態で列車の中に持ち込むことができる。

TernではE BIKEからスポーティーなモデルまで様々なフォールディングバイク（Folding Bike：折りたたみ自転車）をラインナップしており、気軽に折りたたんで車に積んだり、列車や飛行機など公共交通機関で輪行することができる。ロードバイクで輪行するにはかなりの慣れが必要だが、簡単に輪行できるTernのフォールディングバイクで敢えてサイクルトレインを利用するとどうなるのだろうか。451ホイール、油圧ディスクブレーキ標準装備のVerge P10を実際に持ち込んでみた。


今回はB.B.BASEの発着駅として専用ホームもある両国駅から利用。通常の駅改札は通らずに方向ガイドに従い、国技館寄りの道路から3番線ホームに直結するB.B.BASE専用ゲートへ向かう。

3番線ホームへ続く専用通路には階段がなく、車体を押してスムーズに入場できる。

浮世絵の前に立つレトロ調の駅名標の行き先は房総。B.B.BASEは現在、館山、和田浦へ向かう内房コース、勝浦、安房鴨川方面へ向かう外房コース、佐原・鹿島コース、銚子コースと、千葉県内の4方向へ週替わりで運行されている。

程なくして、B.B.BASEが入線。車両にはコンセプトの「基地」をイメージさせるデザインが施されている。このまま車体と一緒に乗り込むだけなのか。少し面倒なイメージのある「輪行」へのアクセスがあまりにもシンプルで、そのイージーさに戸惑う。Ternのフォールディングバイクは簡単に折り畳んで輪行袋に収納できるが、輪行の手間を完全に排除したストレスフリーのB.B.BASEは、より気軽に自転車と遠出ができる手段のひとつとして、輪行未経験者やビギナーにも優しそうだ。

B.B.BASEは209系2200番台の6両編成。車内は4号車をイベントにも使えるフリースペースとし、1・2・3・5・6号車に座席（計99席）とサイクルラック（計99基）が設けられている。

サイクルラックにVerge P10を格納してみた。フックを引いてガイドフレームを引き出し、前輪をガイドフレームに乗せて後輪をラックの中にはめ込む。あとはフレームをベルトで固定するだけで、1分もかからず簡単に格納できた。

JRではこの車体を縦置きするラックを開発したことで、省スペース化に成功した。しっかりホールドされているので電車特有の揺れに耐え、フレームにも傷がつかない。万が一の緊急停止の際にも心配は感じられない。座席は4人掛け・2人掛けのボックス席となり、横3列（2列+1列）の配置とすることでゆったりとしたスペースを確保。各ボックス席にはテーブルとコンセント（2口）も設置されている。全車両に滑り止めが施されたゴム床材を採用し、ビンディングシューズ着用のままの乗車でもOKと、至れり尽くせりだ。

車体を押し歩いたままホームに入場し、そのまま列車に乗り込む。そしてラックに固定するだけ。折りたたんだり、輪行袋に入れたり、それを担いだりする必要がなくとても楽だ。しかも、見た目も格好いい。フォールディングバイクだからって頑なに敬遠するよりも、積極的に利用すべきシステムだ。もちろん、同行者がフォールディングバイクでない場合はかなり重宝するだろう。

＊サイクルラックには前・後輪の泥除け、後輪を囲うスタンド、ブロックパターンのタイヤ、3つ以上のタイヤを装着した自転車などは搭載できないが、簡易スタンドも用意され、B.B.BASEへのお持ち込み自体には制限はない。

懐かしい風景に癒される北総佐原の田園ライド

今回の目的地、佐原には90分ほどで到着。B.B.BASEは往復とも改札前の1番線ホームを利用することで、自転車をそのまま押し歩いてスムーズに利用できる。日本遺産「北総四都市江戸紀行・江戸を感じる北総の町並み」四都市のうちの一つでもある佐原の玄関口、駅舎も風情ある佇まいでテンションが上がる。

茨城県との県境に近い佐原は「北総の小江戸」と呼ばれ、小野川沿いの重要伝統的建造物群保存地区には江戸時代の情緒ある街並みが残る。建築探訪のほか、ライド後にご当地スイーツ巡りや酒蔵の見学もお勧め。

古くから香取神宮の門前町として栄えた「佐原（さわら）」の名前は、香取神宮の祭典に使われる土器・浅原（さわら）に由来するといわれ、江戸時代に利根川の改修工事が完成したことで水運を中心に商業の街として発展した。当地出身の伊能忠敬が日本全土を測量し『大日本沿海輿地全図』を完成させたのもこの時期で、伊能忠敬旧宅や伊能忠敬記念館ではその人物像に触れたり資料を見ることができる。

今回はランチスポットまでの、片道14.5kmのコースをライド。市街地を抜けると田園風景が広がる中、緩やかなアップダウンのあるコースを楽しめる。信号も交通量も少ないため、景色を見ながら気持ち良く走れる。

Verge P10は、フロントシングルながらワイドギアを搭載することでフロントダブル並みの走行性能を併せ持つ。また、451の上位グレードホイールと最上位モデルの高剛性フロントフォークを搭載し、車体価格の割りには走行性能が非常に高い。また油圧ディスクブレーキも標準で装備しているため、今回のようなライドで万が一雨に見舞われても高い制動力で安全に走行できる。

小高い丘の上にあるザ・ファーム カフェに到着。佐原駅から片道14.5km、往路の登り獲得標高は139mと脚力に自信のない方でも走り切れるコース設定で、ちょうどいい空腹感を感じた頃のランチとなった。

スポーツバイクは走行性能だけでなく、ルックスも重要。洗練されたVerge P10のフォルムがスタイリッシュな背景に映える。

緑に囲まれた中、木のぬくもりを感じられるモダンな空間で、農園野菜をふんだんに使ったシェフ自慢のランチ料理をいただいた。このザ・ファーム カフェは、客室は森と畑に囲まれたおしゃれなコテージやテントタイプの客室を備える「THE FARM」のエリア内にあり、園内ではほかに貸農園や温泉、BBQ、様々なアウトドアのアクティビティなども楽しめる。

ハンバーグランチにはガトーショコラまで付いて大満足。園内や近隣で収穫された新鮮な野菜は、見るからにカラダに良さそう。スポーツバイクでの適度な運動や身体にいい食事で、メンタル面でもリフレッシュされた。

今回取り上げたVerge P10はTern中上位クラス最高傑作といえるモデルで、実際に市場でも非常に人気が高い。写真の車体のフレームカラーはSatin Black/Gray(Lime)。

11-40Tの超ワイドギアはフロントシングルながら平坦から坂道まで幅広くカバー。新開発のサドルは先端下部にクッション素材を採用し、車体を肩に担いで持ち運べる。また厚みのあるパットが地面からの衝撃を吸収し、ライダーへの疲労軽減に役立つ。　＊Link → Verge P10 製品ページ

Verge P10は20インチながらも大径化した451ホイールで、走りを楽しめるフォールディングバイクと言える。足回りでは、Rolf designのペアードスポークにより、左右で2本1組対になる構造を使い、圧倒的な少スポーク数で必要な張力を補った軽量ホイールを搭載。雨の日も制動力が低下しにくいディスクブレーキシステムを採用するなど、遠方へのライド時にも心強い存在だ。

同じルートを辿り、B.B.BASEの待つ佐原駅を目指す。どこかで見たような懐かしい風景に何度も見惚れ、時間がだけが過ぎていく。B.B.BASEを利用したライドは、きめ細かな気配りで設えられた「基地」を発着点にすることで、心にゆとりを持って現地を楽しめると感じた。

今回紹介したVerge P10のお買い求めは、全国のTern正規販売代理店までお問い合わせを。 ＊Link → ディーラーリスト

＊　＊　＊

全国に展開しているスポーツサイクル専門店 Y’s Roadでは顧客向けサービスとして、東日本旅客鉄道（JR東日本）と提携し来春からB.B.BASEを活用した様々なツアーを開催予定。房総半島をサイクリングしてみたい方、気軽に輪行を楽しみたい方、B.B.BASEを体験したい方、専門のスタッフのサポートで安心できるライドイベントに参加したい方は、今後のY’s Roadからのアナウンスに要注目！


＊撮影協力
　B.B.BASE（JR東日本千葉支社）
　Y’s Road（ワイ・インターナショナル）
　THE FARM

＊使用車体
　Tern Verge P10（アキボウ）

＊この記事で紹介している情報は、2020年11月時点の取材に基づいています。